一方、例えば個人的な依頼で引き受けた学生アルバイトのような家庭教師では、家庭教師業とはいえません。この場合は契約書がないので、民法の原則に基づいて考えることになります。
家庭教師を依頼する関係は、法的にいえば、学習指導という事務を委任するもので、準委任契約という契約の類型に該当します。準委任には、一般の委任契約の規定が準用されるのですが、委任は当事者間の信頼関係を基礎とするものです。そこで相手が信頼できなくなれば、いつでも解約できることになっています。
あなたの場合も、教え方が信頼できなければ、途中でやめてもらうことに問題ありません。働いた分については謝礼を支払う必要がありますが、中途解約だからといって、特別な場合以外には損害賠償の必要はありません。契約が解除されれば、家庭教師は依頼された仕事から解放され、別に仕事をすればよいのですから、期間途中だからといって損害はなく、あなたにもその賠償義務はありません。
もちろん、契約で中途解約の場合の違約金を合意していれば、特に不合理なものでない限り、その合意に従った違約金を支払う必要があります。しかし、契約書はないし、あなたも違約金の話を聞いていないということですから、違約金の合意があったことは家庭教師側が証明しなくてはなりませんが不可能でしょう。無視すればよいと思います。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。射手座・B型。
※女性セブン2020年11月5・12日号