人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第9回は、コロナワクチンの実用化に向けた期待で世界的に高騰する株価の行方について。
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11月以降、米ファイザーに続き、米モデルナ、英アストラゼネカなどが開発する新型コロナウイルスのワクチンの有効性が相次いで確認され、「ワクチン普及→コロナ収束→経済正常化」という期待が高まったことで株式市場に資金が流入し、世界的な株高が続いてきた。これまであまり関心のなかった人も市場に群がる「バンドワゴン効果」が働き、株式市場はまさに“お祭り騒ぎ”の状況となっていたが、ここに来て、どうやらその効果が薄れてきているようだ。
「噂で買って事実で売る」という相場の格言があるように、相場を牽引してきた「ワクチン開発」という材料が、実際に「ワクチン接種開始」となったことで、既にこの材料は市場に「織り込み済み」となっている。ここから先は、ワクチンへの「期待」から実際の「効用」を見極める段階に移っている。
だが、ワクチンの接種が始まったとはいえ、その効果が実際に広まり実感できるのはまだまだ先の話。足元では米国も欧州も日本も感染拡大が続いており、欧州では事実上のロックダウン、日本でも「Go Toキャンペーン」の一時停止など、コロナが実体経済に及ぼす影響はむしろ広がっている状況だ。
株式市場を見ても、ワクチン開発による業績回復の期待から上昇した航空機大手ボーイングなどの「バリュー(割安)株)」の勢いは一段落し、コロナ禍でも業績拡大する米巨大IT企業をはじめとした「グロース(成長)株」が再び上昇を見せる「セクター・ローテーション」が起こっている。そうしたなか、日本株にはコロナ禍でも成長期待が高い、米巨大IT企業に匹敵するような銘柄が見当たらないため、株価は横ばいとなっている。