大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

コロナ禍で企業業績が二極化 大塚家具や三菱重工が生き残る道は?

大塚家具、三菱重工業の教訓

 一例は大塚家具だ。同じ業界で絶好調のニトリやIKEAとは対照的に赤字決算が続き、居座ってきた大塚久美子社長がついに辞任した。しかし、もっと早く金融資産が残っている段階で整理・解体していたら、社員にそれなりの退職金を配れたはずである。

 あるいは、三菱重工業。累計約1兆円の開発費(国費も約500億円)注ぎ込んだ三菱航空機の小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」は設計ミスなどで、ついに事業そのものが事実上凍結されることになった。しかし、同社は過去にビジネスジェット旅客機「ダイヤモンド(MU-300)」も型式証明の取得が大幅に遅れたことがあり、その教訓に学んでいないと言わざるを得ない。

 さらに三菱重工業は、かつて世界一のシェアを誇った造船部門も凋落の一途をたどり、大型客船事業も撤退。このまま行くと同社は100年前の轍を踏んで軍需(防衛)産業に傾斜するのではないかと私は危惧している。旅客機は戦闘機に、客船は軍艦に、ブルドーザーは戦車に化けるからだ。

 実際、すでに同社は航空自衛隊「F2」戦闘機の後継として政府が日本主導で量産を目指す次期戦闘機の開発主体となっており、アメリカのロッキード・マーチンが技術支援し、エンジンはIHI、機体はスバルが担当するという。まさに「産軍連携」であり、この状況を座視していたら「いつか来た道」に向かいかねないと思う。

 いま業績が低迷している企業は「K字型」の上向きに行っている3分の1の企業のやり方を徹底的に研究し、世の中の変化に合わせて「テキパキ」と動き、顧客ニーズに「きめ細かく」対応すべきである。そうすれば、どんな業界でも新型コロナ禍を克服して生き残る道筋が見えてくるはずだ。

 この「テキパキ」と「きめ細かく」は、企業だけでなく個人にも言えることだろう。そして、その兆候はすでに見えている。たとえば、テレワークの長期化とともに地方移住が活発になり、軽井沢や熱海では中古の別荘・マンションが飛ぶように売れている。

 どこに住み、どんな働き方をして、どう稼ぐか―新型コロナ禍を機に、新たな動きが広がっているのだ。政治・経済に対する感度を磨き、世界の動きを読みながら、自分なりの判断基準を持って行動すべきである。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は『日本の論点2021~22』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』等、著書多数。

※週刊ポスト2021年1月15・22日号

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