コロナ禍で生活が苦しくなる高齢者が多いにもかかわらず、年金が減額される。仮に、コロナ不況が反映された実質賃金変動率がマイナス1%となれば、来年6月の支給分からは、夫婦の年金額は1か月あたり約2200円、マイナス2%なら毎月約4500円が削られる計算だ(厚生年金のモデル世帯=夫婦で年金の月額約22万円)。
その一方で、コロナ不況下でも日経平均株価はバブル後最高値を更新し続けている。
株高を買い支えるのが日銀と国民の年金資金を預かるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)という政府マネーだ。
日銀はコロナ経済危機を乗り切る金融緩和としてETF(上場投資信託)を大量に買い入れ、現在、東証1部上場企業の株式の約7%(推定45兆円)を保有する大株主となっており、GPIFも国内株を約41.5兆円(2020年9月末)保有している。
日銀の保有株の含み益はいまや10兆円ともいわれ、GPIFも株価急騰で年金積立金の運用益は大きく膨らんでいる。にもかかわらず、本来国民に配るべき年金はカットする。一体、誰のための株の買い支えなのか。
菅義偉・首相が日銀マネーや年金資金を国民のために使わず、あくまでコロナ禍で年金を減らすのなら、一人ひとりが老後資金の防衛術を考えるしかない。
だからといって、巨額の年金保険料が“タネ銭”となるGPIFのように、リスクのある株投資に資金をジャンジャン回すのは、個人にとっては怖い。
ファイナンシャル・プランナーの深野康彦氏が語る。
「たしかに現在の株式市場は実体経済と乖離が大きい。この先、まだ上がるにしても一本調子ではなく調整(急落)は起きるでしょう。しかし、投資を考えるなら過去の経験則を捨て、バブル後最高値の更新が続いているという現実を受け入れる。
老後資金はリスク投資に向けにくいが、方法はあります。たとえば三菱UFJ銀行に1年定期預金すると利息は0.002%しかない。でも同行の株を買えば配当利回りは1年で5%強。同じ水準が続けば10年で50%超の利益、20年で元本を回収できる計算です。
日本企業には安定した大企業で配当が3~5%の株はかなりある。長期保有を前提に資産の3割程度をそうした複数の銘柄で運用して配当をもらいつつ、大きく値上がりしたら売ってもいい。10年スパンで考えていれば、値下がりする局面があっても、配当でほとんどカバーできるからリスクを抑えた運用ができる」
政府が年金資金で株を買い支え、投資家を儲けさせているのなら、国民もリスク管理しながら、その恩恵を狙うことが、資産防衛のひとつの発想になる。
※週刊ポスト2021年2月12日号