ウィズコロナの時代、マスクの供給が安定してきた現在も人気で手に入りにくいマスクがある。それが、アイリスオーヤマの『ナノエアーマスク』だ。もともとはこの商品、花粉症向けに開発されたという。開発を手がけた女性営業部長にヒットの裏側を聞いた。
アイリスオーヤマといえば、ホームセンターで扱う日用品を思い浮かべがちだ。しかし、新型コロナウイルスによるマスク需要の拡大で人気を博し、国内最大のマスクメーカーへと成長した。特に、好評のため店頭に並んでもあっという間に売れてしまうのが、通気性を保ちながらウイルス飛沫や花粉を99%カットする『ナノエアーマスク』だ。
実は『ナノエアーマスク』は、新型コロナウイルスありきで作られた製品ではない。始まりは3年前の春にさかのぼる。ヘルスケア事業部長の岸美加子さんは、出張の際に新幹線内で、花粉シーズンなのにマスクをつけずにつらそうな人をたびたび見かけた。「マスクをすれば花粉を防げるのに、なぜ?」。疑問に感じた岸さんが調べたところ、4月になると花粉症向けの薬は売れ続けているのに、マスクの売り上げは減少しているという。気温が15℃を超えると、多くの花粉症患者がムレにより不快に感じるからだ。「ならば、ムレや息苦しさを感じないマスクがあれば受け入れられるはず」──そこからマスクのフィルターの開発が始まった。
普通、ムレを感じないほど通気性が高いフィルターでは、花粉やウイルスも通過してしまう。通気性とフィルターの双方とも性能を高めるという課題は難題だった。1年を費やしてたどり着いたのが、フィルターの繊維を太くして、さらにクモの巣のようにナノ繊維を這わせるというもの。ウイルスが侵入する隙間を塞ぎながら空気の通り道を作るのだ。それによって、口元の温度上昇を半分に軽減させることができた(※同社既存商品との比較による。既存商品の口元温度の上昇平均が1.2℃だったのに対し、『ナノエアーマスク』は0.6℃と半減)。