早めに選んでお気に入りの振袖を押さえておく分には問題がなさそうだが、山下さんがためらう理由を聞いていくと、新型コロナの感染リスクだけでなく、費用に対して敏感になっている印象を受けた。一体どういうことだろうか。
「終電を逃した人を自宅まで送り届けることもなくなったので、夫の収入はガクンと減りました。今はタクシードライバーの仕事をセーブして、倉庫のアルバイトをしています。このバイトがないと、私たちの生活は破綻するところでした……」(山下さん)
山下さん自身も夜勤の日数を増やしてもらい、夫の収入減を補っているという。家計はギリギリの状態に追い込まれ、安くても数万〜10万円程度はする高価な振袖レンタルのことを後回しにしたくなってしまったと、その心情を吐露した。
そんな家庭の状況に気づいたのか、娘からはこんな言葉が出たそうだ。
「『振袖レンタルのお金、私の貯金から支払うよ! 小さいころから貯めていたお年玉で何とかならない?』と、言われたんです。実は……貰った子供のお年玉は一度も貯金せずに、全て生活費に回していました。今まで一度も聞かれたことがなかったので、気づいていないと思っていたのが大きな間違いでした」
娘が親せきからもらってきたお年玉をざっくりと計算したとしても、振袖レンタル代は十分に賄うことができたそうだ。しかしそのお金は既にない。山下さん夫妻の収入も生活するのに精一杯で、すぐには捻出できないという。
「親として情けない……。コロナさえなければ、こんなことにならなかったかもしれない。本当に娘には申し訳ないことをしたと思っています」(同前)
現在もコロナを理由に、振袖レンタルの話を先延ばしにしているという。娘が毎日のようにスマホで振袖のデザインを眺めているのを見ると、心が痛くなると嘆いていた。