認知症を患う人が行方不明になる事件が増えている。1年間に報告される行方不明者のうち、認知症が原因と思われるケースは2012年には全体の11.8%だったが、2019年には20.1%と倍増(警察庁)。多くは届け出から1週間以内に発見されているが、その間に問題が起きる例があとを絶たない。事故に巻き込まれた際には家族が賠償を求められることもあるが、そうしたリスクに対応する補償制度について、『週刊ポストGOLD 認知症と向き合う』より紹介する。
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2007年、愛知県大府市に住む91歳の男性がJR東海道本線の線路に侵入し、走行中の電車にはねられて死亡した。男性は長年認知症を患っており、ほんの数分家族が目を離したすきにひとりで出かけ、事故に遭ったという。
JR東海は後日、事故による振替輸送にかかった費用や旅客対応の人件費として遺族に対し約720万円の賠償金を請求。8年間に及ぶ裁判を経て、遺族側の主張が認められ、支払いの義務はないとする最高裁判決が出た。
しかし、本人に責任能力のない認知症患者が起こした事故であっても、家族に賠償請求が行くかもしれないという事実は全国に衝撃を与えた。この事件が契機となり、自治体による独自の賠償責任保険の取り組みが広がっている。
兵庫県神戸市は2019年に『認知症事故救済制度』を立ち上げた。同制度は診断費用の助成も備えた「神戸モデル」と言われ、全国の自治体から注目されている。同市福祉局認知症対策係長の中原啓詞氏が語る。
「賠償責任の有無を問わず幅広く市民に補償する独自の見舞金制度の導入が最大の特徴です。また最大2億円まで補償する賠償責任保険制度も設けており、市内に住民票があり認知症の診断を受けた方が加入できます。保険料は市が負担しており無料です。現在、神戸市では5000人を超える方にご加入いただいています」