物件はタダでも売れなくなる
その結果、何が起きるか? 1980年代にロンドン、ニューヨーク、ヒューストン、メルボルンなど海外の大都市で起きた“悪夢”の再現である。
すなわち、オフィス需要の急失速でオフィスビルの「正味現在価値(NPV/投資によってどれだけ利益が得られるのかを示す指標。将来に生まれるキャッシュフローを現時点の価値に換算した合計金額)」がマイナスになる、という現象だ。
そうなると、物件はタダでも売れなくなり、賃料はどんどん下がる。賃料の下落は大規模ビルから中規模ビル、そしてペンシルビルへと玉突き状態で波及していく。1月時点の都心5区のオフィスの平均賃料は坪2万1846円だが、その現象が起きる目安は平均賃料が坪1万円台になった時だろう。そこから1990年代に経験したような東京のオフィスビル市場の“修羅場”が始まるのだ。
すでに東京都心の商業ビルは悲惨な状況になっている。都心に出社する人が激減したことも影響し、どこもかしこも閑古鳥が鳴いている。このため、たとえば銀座の商業ビルでは採算が合わなくなったテナントが続々と撤退している。
もともとインバウンド(訪日外国人旅行)の急減とeコマースの拡大により、百貨店をはじめとする商業施設の来店客はどんどん少なくなっていた。さらに新型コロナ禍でターミナルビルの人出も激減し、もはや手の打ちようがない状況だ。
在宅勤務・テレワークを経験した人たちは、満員電車に揺られて毎日通勤することにかなり強い抵抗を示す。アフターコロナになっても元には戻らない、ということを想定しておいたほうがよい。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は『日本の論点2021~22』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』等、著書多数。
※週刊ポスト2021年3月12日号