米長期金利はどこまで上がる?
そうなると日本株にとって気になるのは、この先の金利動向だろう。米国は1.9兆ドル(約200兆円)もの経済対策を打ち出し、景気回復に弾みをつけようとしている。それに伴って物価上昇期待も高まり、米国の市場参加者が予想する期待インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率)は2%を上回ってきている。
一方で、米国の潜在成長率(生産活動に必要な全要素を使って供給能力をどれだけ増大させられるかを示す指標)は2%とされる。理論的には、米長期金利は期待インフレ率と、潜在成長率を合わせた水準になるとされ、将来的にはそれらを足した4%強まで上昇してもおかしくない。実際には、さまざまな要素が絡み合って金利は決まるため、あくまで理論上の話かもしれないが、米長期金利にはあと2.5%強の上昇余地があるとも考えられるわけだ。
まして、1.9兆ドルもの大規模な経済対策に伴い米国債の増発は必至であり、需要を上回る供給が増えることで債券の価値が下落すれば金利は上昇する。こちらの要因でも金利上昇は避けられそうにない。
これまで日米の株高は、中央銀行の大規模な金融緩和による株式市場への大量な資金の流入と安定的な超低金利によってもたらされてきたが、その前提のひとつが変わろうとしている。「米国の長期金利上昇→日本株売り」と大勢の投資家が囃し立てるさまは、まさに行動経済学でいう「バンドワゴン効果」にほかならない。パレードの先頭を行く楽隊車(バンドワゴン)の賑やかな雰囲気につられて思わずついて行ってしまうのである。日本株の波乱は当面続くのではないだろうか。
【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。法政大学大学院教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。