となれば、「右回り」「左回り」のロジックを完成させるために再度TDSとUSJの取材をしなくてはなりません。急な再取材に両者とも戸惑っていましたが、「まぁ、そういうことでしたら……」となんとか「右回り」「左回り」のロジックを補強する意見をくださいました。
この時、メディアが「自分の求める論調」をゴリ押しすることを実感しましたし、「上」の人々の言うことこそ絶対であり、「下」の人間はそこに従うだけであることを理解したのですね。
正直、私は「なんで今になって『右回り・左回り』にこだわるの……」と思いましたが、私の発注主たるこの編集者にとっては、さらに「上」である副編集長や編集長に対して「TDSとUSJにはこんな明確な違いがあるんですよ!」と言いたかったのだと思われます。
結局、この企画は無事着地しますが、私としては「だったら、最初からそういう企画だと伝えてくれればいいのに……」と思ったのは事実です。しかしながら「カネをくれる人はエラい!」という大前提に立つと同氏の指示には従わなくてはならない。
冒頭で紹介した若きライターの嘆きについても私が過去に経験したものと同じことでしょう。ただ、ここで思うのが以下です。
「もしかしたらこの人、部下や下請けに無茶振りすることによって自身の権威性を高めようとしているのでは……」
いや、正直私のように20年以上、編集界隈で仕事していた人間からすると「デスク」や「副編集長」という中途半端にエラい人間の妙な権力志向ってものを感じることが時々あるんですよね。
それが「校了直前のちゃぶ台返し」です。下っ端のライターからすれば、「これに従わなければ今後この仕事をいただけないかもしれない……」などと考えるから、なんとしても「上」の要求には従う。
もちろん、人にもよると思いますが、この類の中途半端にエラい人々って、実は「自分への忠誠心を計っている」面があるのでは? というのが、下請け人生まっしぐらを続けてきた私の感覚です。だからこそ、下請け同士は「まぁ、仕方ないよね……」とお互い協力し合える。これが唯一の救いでしょうか。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、博報堂入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『恥ずかしい人たち』(新潮新書)。