金持ちはますます豊かになり、貧乏人はより貧しくなっていく──。新型コロナウイルスの世界的な流行によってもたらされた大きな変化を、そのように受け止めた人も多いだろう。貧富の差の拡大は社会の不安定化を招き、安全保障上のリスクにも繋がる。経営コンサルタントの大前研一氏が、格差是正のために必要な施策について考察する。
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新型コロナウイルス禍の中で企業業績が二極化して「K字型」になっている。上向きが3分の1、下向きが3分の2である。
「K字型」は所得についても同様で、株高の恩恵にあずかる上位10%の富裕層と、苦境が続く下位50%の低所得層の二極化が進んでいる。これは日本だけでなく、アメリカやドイツ、フランスなどの先進国でも共通している。金持ちと庶民の格差は世界的に拡大する一方なのだ。
ベストセラーになった『21世紀の資本』の著者でフランスの経済学者トマ・ピケティ氏は「r(資本収益率)>g(経済成長率)」という式をもとに、21世紀は不動産や株、債券などの資産から生まれる利益のほうが経済成長に左右されやすい労働所得よりも大きくなるため、投資に回せる資産をより多く持つ者により多くの資本(富)が集まり、どんどん格差が拡大すると指摘した。この問題は世界中で議論の的になっているが、では、それを解決するためにはどうすればよいのか? 私は税制を変えるしかないと思う。
具体的には、不動産や株、債券などの「時価評価額(現在価値)」に対する「資産課税」の導入である。
とはいえ、これはけっこう難しい。従来のキャピタルゲイン課税は売却した時に利益が出たら課税するが、保有している不動産や株などの「実現していない利益(含み益)」に課税するという税制は見たことがない。だが、「K字型」の格差拡大を是正するためには、それをやらねばならない。
参考になるのは、アメリカの固定資産税の課税方法だ。アメリカでは、不動産の「鑑定評価額(≒時価評価額)」に対して課税される。税率は州によって異なり、その不動産に所有者が居住している場合は0.28~2.38%(投資用は高くなる)だ。鑑定評価額が1億円で税率が1%なら、固定資産税は年額100万円である。