昨年のコロナショック後は、信用売り方の買い戻しや、大幅な裁定売り残の解消に伴う現物買いが相場の押し上げに寄与していた。しかし、足元では、信用取引の残高を見ると、買い残が2年半ぶりの高水準にある一方、売り残は5か月ぶりの低水準にある。さらに裁定残はネット買い越しに転じており、これが定着しつつある。ここから、少なくとも、昨年来の断続的な株価上昇を演出してきた「売り方の買い戻し」による寄与分は剥落したといえよう。
むろん、新年度相場入りに伴う新規買いがないわけではないし、企業業績の改善と合わせて、昨年から自粛されていた自社株買いなども一層増えてくると思われ、需給面が悪いわけではない。それでも、既に指数が歴史的な高値圏にあることを考えれば、需給面での押し上げ役が一つ欠けたいま、ここ一年間の上昇ペースに見慣れてきてしまった相場関係者にとっては、ここからの「指数の」上昇ペースは緩慢とならざるを得ないことを頭に入れておく必要がありそうだ。
昨年3月からのちょうど1年間が、各国の大規模な財政金融政策や金利などのマクロ要因によって相場が決まっていた「金融相場」であったのに対して、新年度に入ってからの今後の相場は、業績の好転・向上に裏付けられた「業績相場」となっていこう。直近数年の海外投資家の日本株売買動向によると、昨年11月以降からの買い越し分を考慮してもまだ日本株の買い越し余力は2兆円ほどあるとの指摘も聞かれる。
指数連動型のパッシブファンドを大量に買い上げるわけではないため指数がこれまでのように大きく上昇することは考えにくいが、好調な実績と見通しが確認された銘柄には断続的な買いが見込まれそうだ。決算の見極めが一段と意識されるなか、今週は小売企業の決算ピークだ。先週に発表されたところでは、コジマ<7513>など巣ごもり需要の一服が意識されてもおかしくないような事業を手掛けているところでも、内容がよければしっかりと買われていた。こうしたところからも選別物色が一段と強まりそうな気配が窺え、ここからは業績相場ならぬ選別相場の様相を呈してくることが想定される。
昨年11月頃から始まったバリュー(割安)・リバーサルの流れは3月までで一巡した。一方、グロース(成長)株の重しとなっていた米長期金利も、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録の内容や、国際通貨基金(IMF)春季会合のバーチャルパネル討論会でのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言を受けて、今まで以上に落ち着いてきた。今後は「バリュー」「グロース」といった単純な二極化の動きは起こらないだろう。
足元では、外資系証券がマザーズ銘柄群のカバレッジを開始するなど海外勢による日本テック企業への関心の高まりもみられる。今週はSansan<4443>やマネーフォワード<3994>など注目テック企業の決算もある。決算後に、出遅れ感のある内需系グロースへの見直し機運が高まる可能性もあろう。
今週は、12日に3月工作機械受注、13日に中国3月貿易収支、14日に米ベージュブック(地区連銀経済報告)、15日に米3月小売売上高、米3月鉱工業生産、米4月ニューヨーク連銀製造業景気指数、16日に中国1-3月期GDP、中国3月工業生産、中国3月小売売上高などが控えている。