両親がそろって亡くなることは滅多にない。どちらかが旅立ち、「おひとり」になった親の世話は子供の務めと思われがちだが、そこには様々な落とし穴がある。
歌手の湯原昌幸氏(74)と歌手・女優の荒木由美子氏(61)夫婦は、1983年に結婚するも、挙式のわずか2週間後に湯原氏の母が倒れて、新婚ながら介護生活が始まった。その時、湯原氏は「環境の変化」が与える影響の大きさを思い知らされた。
「当時お袋は66歳でひとり暮らしをしていましたが、結婚を機に同居することにしたんです。そうしたら血栓が飛んで倒れて、入退院を繰り返すようになりました。同居による環境の変化があってか、体調は悪化し、精神的な浮き沈みが激しくなった。僕と怒鳴り合うことも多く、間に入った由美子は思ってもいなかったかたちの新婚生活となり、家庭崩壊の寸前までいきました。今考えれば、無理な同居は避けるべきだったのかもしれません」
同居のストレスで認知症が進行
血のつながった親子でも、同居によって様々な軋轢が生じる。互いに「遠慮」を強いられるからだ。母の死後、ひとり身になった父と同居した元会社員(72)が振り返る。
「銀行員だった父は生真面目な性格で、同居を始めてからも常に私や妻に遠慮して、心が落ち着かなかったようです。朝が遅い私の家族と違い、早寝早起きが身についていた父は、生活のリズムの違いにも戸惑っていました。
大問題はトイレで、気を遣って大便や夜中のトイレを我慢し、自律神経のバランスが崩れて便秘気味になった。それでもなお気後れしてか、わざわざ外出して近所の図書館のトイレを使っていたら、ストレスも重なり腸閉塞から大腸がんを発症して、同居から3年ほどで亡くなりました。妻ともどもこんなことなら同居ではなく近くで暮らせばよかったと後悔しました」