ストレスの溜まる同居をきっかけに、認知症が進行したケースもある。母の死後、父と同居した元教員(66)が言う。
「内弁慶の父は、同居を始めてから私の妻に遠慮しっぱなし。食卓にフライものが並ぶと気を遣っておいしそうに食べながら、あとで『本当は刺身が食べたかった』とボソッとつぶやく人で、平日の日中は妻と二人きりになるので会話に困っていた。何より汚れた下着を妻に洗濯させることを躊躇していました。
その後、我慢ばかりの生活だった父のまだらボケが始まり、認知症と診断されたので施設に入れました。まだボケが少なかった頃の父が『介護までは絶対にお前の嫁には頼めない』と語ったことが心に残っています」
親の行動に「関与しない」姿勢
『老後はひとり暮らしが幸せ』の著者で、高齢者の生活満足度調査を行なってきた医師の辻川覚志氏(つじかわ耳鼻咽喉科院長)は、「安易な同居は失敗のもと」と語る。
「まったく別の世界に住んでいた者が共同生活を始めるのだから、同居で問題が生じるのは当然です。しかも現在は高齢化で同居の親の面倒を見る期間が長くなるとともに、子供世代の忙しさが増していて、トラブルが発生しやすい土壌があります」
親の老後を心配するなら、むしろ「関与しない」という姿勢が有効だと辻川氏は続ける。
「ある程度の年齢を迎えた人は“これからは自分のやりたいことをやろう”と考えます。しかし、同居で子供や嫁への遠慮が生じると、やりたいことのできないストレスを内に抱え込むことになり、健康悪化のもとになる。だから子供世代は、なるべく親の行動に関与せず、何事も見て見ぬふりをして、本人の意思で行なわせることが大事です。それが認知機能の低下を防ぐことにもつながります」
※週刊ポスト2021年4月30日号