京都で生まれ育った芥川賞作家の綿矢りささんは、小説『手のひらの京』(新潮文庫)の中で、京都の季節感について「京都に残暑なんてない。九月は夏真っ盛りと思っていた方が、精神的に楽である」と書いている。この場合は京都だが、今年の東京にもなぞらえることができそうだ。具体的には、「3月から4月が春、5月から9月が夏、10月から11月が秋、12月から2月が冬」という季節感になるだろう。暦の上での夏が6月から8月であるのに加えて、5月、9月と前後にひと月ずつ伸びた形だ。
5月から夏の暑さが来るのかとうんざりする人もいるだろう。しかしここは、季節に合わせて装う服へと目線を変えてみたい。和服の世界では、昔から「季節の先取りは粋」とされ、上級者の選び方だという。花が満開になる前に、着物の柄として桜を取り入れるなど、実際の季節感より一歩先のものを身にまとうのだ。そのため、盛夏の着物を5月から着るのも問題はない。この感覚を、和服に限らずファッション全体に当てはめても良いのではないだろうか。GWには夏服を衣装ケースから取り出し、「粋人」として過ごすのも、生活に彩りが生まれて良いかもしれない。
【プロフィール】
田家康(たんげ・やすし)/気象予報士。日本気象予報士会東京支部長。著書に2021年2月に上梓した『気候で読み解く人物列伝 日本史編』(日本経済新聞出版)、そのほか『気候文明史』(日本経済新聞出版)、『気候で読む日本史』(日経ビジネス人文庫)などがある。