家族に迷惑をかけない死に方をしたいと考える人は多いだろう。しかし、それを実現するには、思いの外、困難がつきまとう。都内の飲食店に勤める68歳男性は、昨年看取った“母親の晩年”に、大きな悔いが残ったという。
「父が亡くなり、母が“おひとり”になったことをきっかけに、私が妻と実家に移り住んで同居することにしたのですが、後悔しかありません。
一緒に暮らすようになって、同じ話を何度も繰り返すなど認知症の兆候に気づいたのですが、病院に行こうとしない。あまりに嫌がるので面倒になってそのままにしたのですが、そのうちおかしな行動を繰り返すようになった。
近所の人に“毎日ディスカウントショップでボールペンを10本買っていますよ”と聞いて、部屋を調べてみると、引き出し一杯にボールペンが詰め込まれていた。それを怒ると母は反抗し、頑なになっていった。結局は施設に入ってもらうことになったが、家内は“だから最初から同居はイヤって言ったじゃない!”と怒り心頭でした」
小さい頃に優しかった母の面影があり、施設に入れるのが忍びなかったという男性だが、最後の数年の記憶は「思い出したくないものになってしまった」と振り返る。
幸福な家庭はみな同じように似ているが、不幸な家庭の不幸なさまはそれぞれ違うもの──人生の最後に、子に疎まれた親たちの悲劇とは。
50代でトイレ介護が必要になった妻
ピンピンコロリなら誰にも迷惑はかからないが、多くの場合は介護が必要になり、負担が子供に重くのしかかる。特に、介護のため家族が職を失う「介護離職」は大きな社会問題だ。家計の負担が増すばかりでなく、精神的にも大きなストレスとなる。
「父との同居生活は、はじめから大変でした」と語るのは、都内の50代男性だ。
「数年前に母が他界し、父を自宅に引き取ったのですが、食べ盛りの子供が好きな揚げものを出すと、『刺身が食べたい』と言い出すなど、生活習慣の違いに苦労しました」
その後、子供が大学進学で家を出たため家事の負担が減り、ホッとひと息ついたのも束の間、父親が脳梗塞で倒れて、要介護2となった。
「最初は妻と『介護サービスを使えば身の回りの世話もしてもらえるし、在宅介護はそれほど難しくないだろう』と思っていたのですが……」