人生の最期をどこで、どう迎えるか──「人生100年時代」において、その問いはより切実なものとなっている。QOL(生活の質)を重視する価値観が広まる中、注目が高まっているのが在宅介護・在宅医療だ。
愛着のある自宅で人生を締めくくることを望む人が増えた。しかし、ひとつ間違えると理想とは程遠い“悲劇”を招いてしまうことも。経験者たちの失敗例から学べることは──。
「うちは蓄えが少ないから、介護施設は利用せずに自宅で頑張ろうとした。それが失敗の始まりでした……」
そう語るのは、東北地方在住のA氏(自営業・56)。5年前に母親が76歳にして認知症を発症し、要介護認定を受けた。当初は軽い症状だったが、1年後には外出先で頻繁に迷子になるほど進行した。
それでも食事や排泄などは他人の手を借りずにこなせるため、要介護度は2以上にはならなかった。比較的安く利用できる特別養護老人ホームは、原則的に要介護3以上でないと入居できないが、費用がかさむ民間の老人ホームに入れる経済的余裕はなかった。
A氏は介護費用を抑えるため、働きながらの在宅介護を選んだ。母の了承を得たうえで、介護にかかるお金を母親の年金と貯金から捻出した。
A氏の母親は1年ほど前、季節性の肺炎をこじらせて亡くなったが、トラブルはこのとき持ち上がった。A氏が言う。
「弟が『施設に入れなかったのは、母さんの年金を使い込むためだったんだろう』と言い出したのです。もちろん必要なお金しか使っていませんが、領収書を細かく管理していたわけではなく、決定的な証拠を出せずに遺産を巡る兄弟喧嘩になってしまった」