さらに、デジタル通貨が広く流通し始めて、貯金も決済も送金もできるとなったら、各国の中央銀行やアメリカが支配している国際送金サービスのSWIFT(国際銀行間通信協会)は意味がなくなってしまう。
つまり、世界共通のOSとデジタル通貨はサイバー社会の巨大な“黒船”であり、それによって世の中は一気に変わるのだ。
にもかかわらず、日本は相変わらず言語の壁や政府の岩盤規制に守られ、いまだに“鎖国”状態だ。完全にガラパゴスであり、このままでは世界と戦えない。
その象徴が医療分野だ。たとえば、中国の「平安保険」が手掛ける「平安グッドドクター」という遠隔診療サービスは、1年365日24時間いつでも、医師がスマホのチャットや通話などで診察し、病院の予約や薬の宅配も手配してくれる。
新型コロナの感染抑止策では、DXを活用した台湾の施策が高評価されたし、ワクチン接種では、人口あたりの接種率が世界一と言われるイスラエルの国民データベース(DB)が大いに参考となる。DBの中に基礎疾患や既往症などの情報がすべて入っていて、接種後の副反応も把握しているのだ。私は30年ほど前から生体認証を含む同様の国民DB構築を提唱しているが、日本では全く実現していない。その不作為のツケが接種率1%以下・主要国最下位(4月20日時点)という惨状なのだ。
日本はDXどころか、そもそもデジタル化において世界から2周も3周も周回遅れになっている。IT企業経営者に友人が多いと言われる大臣に導かれて“なんちゃってデジタル庁”を創設したくらいで、その差は縮まらないのである。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『稼ぎ続ける力』(小学館新書)など著書多数。
※週刊ポスト2021年5月7・14日号