住み慣れた「住まい」について、子供が独立した後は個室が余るし、メンテナンスの費用や掃除の手間もバカにならない……という理由で、交通至便なマンションやアパートに引っ越す、いわゆる「ダウンサイジング」を検討する人が増えている。
一般社団法人不動産流通経営協会の調査によれば、65歳以上の約78%が「ダウンサイジングの意向あり」と答えている。ただ、住み慣れた家を手放して狭い家に移り住むことが、幸せな結果をもたらすとは限らない。
都内在住の50代男性の両親は、7年前に郊外の一戸建てを売却し、男性の家から遠くない分譲マンションに引っ越した。
マンションは両親が希望した“駅近”だったこともあり、思っていたよりも高額。家を売ったお金だけではまかなえず、少し貯金を取り崩すことになった。それでも両親は「戸建ては老夫婦には広すぎるし、古くなってきてこの先リフォームなどにお金がかかることを考えたら、今が引っ越し時」と判断したという。
しかし、思い通りにはいかなかった。
「親はこれまで一度も集合住宅で暮らした経験がなかったので、引っ越すとすぐに『家具を置くと思った以上に狭い』『買い物やゴミ出しのために、いちいちエレベーターに乗らなきゃいけない』と愚痴を言い始めました。マンションには若い子育て世帯が多いようで、以前のようなご近所付き合いもない。毎日のように『遊びに来ないのか』と電話してくるので、僕も家内も辟易しています」
将来の医療費や介護費に備え、自宅を売却したお金を貯蓄に回し、賃貸アパート暮らしを始めるケースもある。ただ、“狭い部屋”に移り住むのは、リスクと隣り合わせだ。介護評論家の高室成幸氏はこう指摘する。
「慣れない生活環境で暮らすストレスから、認知症を発症したり、症状が進んでしまったりすることがある。周囲に馴染めず出歩かなくなったり、会話の機会が減ったりすることで認知機能に悪影響があります。広々とした家で暮らしてきた人たちはその生活が染みついているので、利便性ばかり追い求めてマンションやアパートに引っ越すのは、得策ではないことも多いのです」