一方、バリューでも、純粋シクリカル(景気循環)株としての性格が強い海運大手の商船三井<9104>が、決算発表後も出尽くし感に繋がらずに上昇基調を続けている。決算前の株価が、既にコロナショック前の2019年の年末水準の1.5倍までに上昇していたことを考慮すれば、景気敏感株への根強い買い意欲が窺える。今後も単純な二極化ではなく選別物色の様相が強まることが想定されよう。
そのほか、世界的なインフレ懸念が改めて相場の注目点となってきそうだ。米国10年物国債利回りは1.5%台に低下した後は安定した動きが続いているが、期待インフレ率とも呼ばれる米国10年物のブレークイーブン・インフレ率は5月5日には2.47%にまで上昇した。鉄鋼からアルミニウム、亜鉛などの商品市場でもかなり需給が逼迫している状況だ。半導体の供給不足も2022年まで続く可能性が指摘されている。
さらに、米国の雇用状況も急速に回復中だ。各種景況指標の強い結果が続いているが、雇用関連の指標は特に強い。ワクチン接種の加速とともに、コロナ禍での打撃が厳しかったサービスや飲食関連の分野でも人手不足になってきている。米連邦準備制度理事会(FRB)は、雇用情勢は依然不透明で過度なインフレはあっても一時的なものとし、金融緩和を継続する方針だが、このまま物価だけでなく雇用の回復も強い状態が続けば、政策スタンスの変更を迫られる可能性もあろう。
そうした懸念もくすぶり始める中、今週は米国で物価関連の指標発表も控えている。これらの結果次第では再び「インフレ加速・長期金利上昇」という動きが出てきてもおかしくない。決算ばかりが注目されがちだが、決算一巡後には再びインフレと長期金利を巡る思惑が相場を左右しそうだ。
上述したように「インフレ」は中長期での関心事になることが想定される。インフレを意識したポートフォリオ構築を推奨する専門家の意見も改めて多く聞かれている印象だ。単純な二極化相場は既に終わったとはいえ、鉄鋼や商社を中心とした資源関連株の相対的な強さは続いている。グロースでも、ITのような内需系よりは、半導体のような外需系の方が強さが目立つ。インフレ傾向と業績の連動性が高いセクターや、仕入価格の上昇を販売価格へと転嫁できるような価格設定能力のある企業が有望といえそうだ。
今週は11日に3月家計調査、12日に3月景気動向指数、米国4月消費者物価指数、米国10年国債入札、13日に4月景気ウォッチャー調査、米国4月生産者物価指数、米国30年国債入札、14日に5月オプション特別清算指数(SQ)算出、米国4月小売売上高、米国4月鉱工業生産などが予定されている。