定年後に“退職金を元手に何か投資を”と考える人もいるだろうが、老後の資産運用には様々なリスクがある。自らの蓄えには余裕がある人が、“妻や子のために”と考えた末に落とし穴にはまることがあるのが不動産投資だ。
知人に紹介された不動産業者の勧めで、東京郊外の賃貸用ワンルームマンションを購入した69歳男性が語る。
「業者には『生涯にわたって毎月安定した収入が得られる』『相続税の評価額も現金の3分の2に抑えられる』など、メリットを強調されました。たしかに、購入直後は家賃12万円ですぐに借り手がついて安心したのですが……」
ところが、3年目からは空室となり家賃収入はゼロに。一方で、固定資産税や管理費などの支出が減ることはない。
「そうした状況が2年続いた時点で売却しましたが、駅から少し遠かったこともあり、購入4年後のマンション価格は思ったよりも下落していて、諸費用の出費を含め1000万円近い損失になった。相続税対策の目論見が外れ、子供に残す資産を目減りさせてしまった」(同前)
アパート経営のための敷地なども、条件を満たせば相続税評価額を大幅に圧縮できるメリットがある。ただ、賃貸用に物件を購入する場合、“常に入居者がいて賃料収入がある”ことが収益をプラスにする条件となる。節税効果を期待するあまり、そのリスクに目が向かないと、手痛い失敗につながる。
社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの北山茂治氏が指摘する。
「超低金利時代が続くなか、資産をいかに上手く運用するか考えることは必要ですが、老後資金の核となる退職金などを投資に回すのは得策ではありません。投資を始める場合でも、額を抑えたところからスタートするのが鉄則です」
バラ色のシナリオばかり想定してはいけない。
※週刊ポスト2021年5月21日号