手塩にかけて育てた子供が親を助けるのは当たり前──そう信じているのは親だけかもしれない。内閣府の「令和2年版高齢社会白書」によると、全世帯における三世代世帯の割合は年々減り続け、2018年に過去最低の10.0%を記録した。一方で単独世帯や夫婦のみの世帯は増えている。かつては同居する子供が高齢の親の面倒を見ることが一般的だったが、現在はその機会が減る一方だ。
加えて「同居していないから子供の面倒にはなっていない」などと思ってはいけない。超高齢化のなかで親が我が子を頼りにするあまり、子供からソッポを向かれる事態が多発している。
注意すべきは、日常の「ちょっとした頼み事」が積み重なり、子供の許容範囲を超えるケースだ。
「もう年寄りにはスマホを持たせるな!」と怒り心頭なのは、神奈川県の50代会社員。
「車で30分の実家に住む80代の父親から、『最近買ったスマホの使い方がわからないから、ちょっと来てくれ』と何度も呼び出されます。
最初はIDやパスワードもわからないレベルでとにかく上達が遅く、『行き詰まったら何でもいいからOKを押しておけ』と投げやりにアドバイスしたら、本当に適当に押してスマホのデータが全部消えたこともあります。何度も呼び出されてもう限界。ガラケーに戻してほしい」
岐阜県の60代女性も「“親の立場”を利用したおねだりには、うんざりです」と憤る。
「車で5分の場所に住む母が事あるごとに電話をかけてきて、『クーラーが壊れている気がするから直してほしい』などと実家に呼び出しては、私が到着した途端に、『そういえば冷蔵庫が空っぽだから、スーパーで卵と牛乳買ってきてよ』などと付け加えるんです。忙しいからと断わろうとすると、『一人娘のアンタを大事に育てたのに、冷たくするんだね』と小声で寂しそうに言う。つい情にほだされて言いなりになってしまうが、イライラが募りいつ爆発するか自分でもわかりません」
これらのケースで共通するのは、いずれも親が「些細なお願い」と思い込んでいる点だ。
教育・介護アドバイザーの鳥居りんこ氏が語る。
「子世代は親が思っている以上に忙しく、『親の代わりにちょっと買い物に行く』ということでも、『私の貴重な時間を奪われた』と感じて大きな反感を覚えます。“子の心親知らず”の状態が続くと後の親子関係の大きな火種になりかねないので、親世代は、『これくらいならいいでしょ』というお願いが、どれほど子供の負担になっているか考えるようにしなくてはなりません」