人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第21回は、創業以来初の「純利益1兆円」の大台を突破するなど業績好調なソニーについて分析する。
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日本企業の2021年3月期決算が出揃い、新型コロナウイルスの影響による明暗がくっきり分かれた。人流の抑制で運輸や観光業などが巨額の赤字に苦しむ一方で、巣ごもり需要の恩恵を受けた企業や、世界的な半導体不足を受けた半導体関連企業は好業績に沸き、なかでも国内外への投資が絶好調だったソフトバンクグループは日本企業で過去最高となる4.9兆円もの最終利益を計上。業績の二極化がより鮮明となる「K字回復」の様相となっている。
そうしたなか、私が出色の決算として注目しているのがソニーグループである。かつてどこにもないモノをつくる“ソニーらしさ”が失われたと指摘された同社だが、見事に環境の変化に順応して、創業以来初となる1兆円超の最終利益を叩き出した。ソフトバンクグループの決算も話題になったが、こちらは浮き沈みのある投資を中心とした利益であるのに対し、ソニーは消費者と対話してほしいモノをつくり出す実業で稼ぎ出している点が大きく異なる。
具体的には、半導体の一種でデジタル化に欠かせない画像センサー「CMOSイメージセンサー」に加え、子会社が制作や配給に携わった『鬼滅の刃』がメガヒットしたほか、巣ごもり需要でPlayStation 5やゲームソフトの売り上げが増加し、音楽配信などのコンテンツビジネスも花を咲かせている……。このように人々の欲求に応えるモノやサービスを次々と世に送り出していることが大きい。株価に左右される“時代のあだ花”とも言えるソフトバンクグループとは一線を画し、消費者が欲しいモノをつくり出せているうちは安定的な収益が見込めるに違いない。
特に、かねてよりライバル視されてきたパナソニックとソニーの明暗は、はっきり分かれた。パナソニックも環境の変化に適応しようとビジネスを進めてきたが、どうしても変化に追いつけていないことは前期決算からも明らかだ。パナソニックの2021年3月期決算は売上高が7兆円割れと8.9兆円のソニーに大きく水を開けられ、最終利益は1650億円とソニーの7分の1にすぎない。時価総額もパナソニックの2.9兆円規模に対し、ソニーはその4倍以上となる13兆円規模で、市場の評価もソニーに軍配が上がっている。パナソニックが割増の退職金を加算して希望者を募るリストラ策に打って出るのもソニーとの差が開いていることの表れだ。