中川淳一郎のビールと仕事がある幸せ

私が体験した「パン工場バイト」の実態 本当に「恐怖」だったのか?

パンを持ち帰れるサプライズ!

 しかし、そこからが悶絶でした。午前0時を過ぎ、深夜の作業に入るためです。2時、3時と時は過ぎていきますが、4時ぐらいになると眠くてもはや頭が朦朧となりますし、「早く6時の終業時刻よ来てくれ~!」とひたすらに祈るようになります。

 それからは「あと2時間」「あと1時間」「あと30分」などとしょっちゅう時間を気にしながらベルトコンベアーの前で黙々と作業を続け、ついにやってきた朝6時。ここでサプライズがありました。なんと、パンを持ち帰ることができたのです!

 もちろん無数に持って行くワケはなく、自分用に3つ、そしてこの日、大学で会う友人用に1つの計4つをもらいました。外に出ると明るい陽射しがまぶしく、自転車をこいで15分ほどで大学のキャンパスへ。部室で3時間ほど寝てから1限の授業を受け、昼休みは2人の友人とともに菓子パンランチを楽しんだのでした。

 その後も急遽お金が欲しい時はこの山パンバイトをしましたが、性に合っていたのか、私にとっては「恐怖のバイト」でもなんでもなかったですね。何しろメシが出てお土産まであった。もちろん今は当時と時給も異なるでしょうし、仕事内容が変化している面もあると思います。

 それでもその後、大学の同級生はもとより、社会人になってからも「山パンバイト」をしたことがあるという人に、しばしば出会います。夫妻とも山パンで働いている人に出会った時には「おぉ、キミもオレの“同僚”か!」なんて言われて、嬉しかったことも。色々なアルバイトをしましたが、山パンバイトは特に思い出深い経験です。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、博報堂入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『恥ずかしい人たち』(新潮新書)。

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