「終の棲家」として選んだはずの介護施設でも、そこで最期まで暮らせるとは限らない。千葉県の有料老人ホームに入居していた80代男性は、施設の“スペック”が合わなくなり、退去させられた。男性の長男(58)が説明する。
「父は嚥下能力が下がり、入居して半年で点滴(静脈栄養)が外せなくなりました。そうすると、『当ホームでは看られません』と言われ、退去することになってしまいました……」
介護評論家の佐藤恒伯氏が解説する。
「『医療依存度が高くなる』、『認知症が悪化して問題行動が増える』といった場合に退去させられるケースがあります。
有料老人ホームは、看護・介護スタッフどちらかを、入居者3人に対して1人の割合で配置することが義務付けられていますが、24時間看護師が常駐している施設は基本的に高級ホームです。一般的なホームでは看護体制が間に合わなくなり、退去させられることはよくあります」
問題はそれだけではない。「返金されると思っていた入居一時金のほとんどが戻ってこなかった」と男性の長男が嘆く。
「入居一時金として父の虎の子の貯蓄から1000万円も払ったのに、戻ってきたのは500万円だけでした。入居してたった半年で半分も償却されるのは、納得がいきません」
介護アドバイザーの横井孝治氏が解説する。
「入居一時金は『家賃(月額利用料)の先払い』という側面があり、安ければその分家賃が高くなり、高額なら家賃が安くなる。概ね5年間で入居一時金が償却されます。
しかし、最初の3か月間で20~50%を償却するホームも多く、この男性のように“1年も利用していないのに、退去時に戻ってきたお金が少ない”というケースが少なくありません」