妻は亡き夫と2人で守ってきた家に住み続けたいと考えていたが、すでに家を出て両親と疎遠になっていた娘は、法定相続分の1700万円を要求して譲らなかった。
「妻の私が自宅を相続する代わりに、娘に現金で1300万円渡せればよかったのですが、そんなお金はありません。娘を説得できないまま、自宅を売って遺産を分けるしかなかった。新しい住まいを探そうにも、高齢の一人暮らしが入居できる賃貸物件がなく、大変な思いをしました。この一件以来、娘とは口もきいていません」(68歳女性)
税理士の山本宏氏はこう指摘する。
「遺産の総額が課税対象額以下でも、故人の妻と子供の仲が悪い場合は、持ち家の相続をめぐりもめることが多い。現預金が少ないと、遺産分割のために自宅を売却する必要が生じることもある。
こうしたトラブルを防ぐには、生前に親と子が話し合い“誰が自宅を相続するのか”を明記した遺言を残すことです。効力のある遺言書があれば遺産分割協議の必要がなくなり、残された妻と子のもめごとを回避できる可能性がある。また、民法改正で2020年4月から設定できるようになった『配偶者居住権』を利用する方法もある。遺言書で妻に自宅の『居住権』、子に『負担付所有権』というかたちで設定すれば現預金が少なくても遺産を分割できます」
※週刊ポスト2021年6月18・25日号