かつて1980年代にバブル景気を体験した日本経済。その後、「失われた20年」を経て、デフレが進み、それに伴って賃金も右肩上がりではなくなった。株価こそ日経平均株価が3万円前後と、バブル期と遜色ない水準に戻りつつあるようだが、だからといって日本経済が復活しているようには思えない。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏は、今の日本は「20年前の東南アジアのようだ」と述べる。どういうことか、中川氏が「貧乏国家」となった日本の姿について考察する。
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1990年代中盤から後半にかけ、タイ国際航空がいしだ壱成を起用して、「タイは、若いうちに行け」というCMシリーズを展開しました。このCMの影響もあって多くの若者がタイに旅行に行ったことだと思います。
ご多分に漏れず私もこの頃タイの首都・バンコクに旅行に行き、すっかり気に入ってしまい、2019年まで2年に1回は行くようになりました。何しろ物価が安いのと、食べ物がおいしいので“世界一の観光地”だと思うほどでした。
しかし、2010年代中盤から「ムムムムム?」と感じるようになりました。それは日本人観光客、特に若者の数が明らかに減っていたからです。しかも、2000年代前半には常に客引きから声を掛けられていたのに、その頃になるとまったく声を掛けられなくなった。
かつては「コニチハ」「ヤスイヨ」などに加え「エロビデオ」などと客引きから日本語で声を掛けられたのですが、それが一切なくなった。一方、私を中国人や韓国人と勘違いしたタイ人からは「ニイハオ」や「アンニョンハセヨ」などと言われる。これが意味することは、「もはや日本人観光客は、タイ人にとっての上客ではなくなった」ということではないでしょうか。
実際、少し高い飲食店に入ると中国人や韓国人の方が多かった。安い店に行くと、日本人の若者グループが一人一品食べた後、無料の水で1時間以上ダベっている姿も見ました。この手の店では2000年代前半は一人600円も払えば酒が飲め、たらふくメシが食えたのですが、どうも2010年代中盤以降は900~1200円程になっているように感じられます。
となれば、日本より「若干安い」程度であり、20年前の「安いタイ」ではなくなっている。