人生の最後を締めくくり、次の世代にスムーズにバトンを渡すための終活──その実践で一家離散に追い込まれたケースがある。
関東地方に住む田中由香子さん(仮名・49才)は造り酒屋の三女として生まれた。50代の長女と次女が家業を継がなかったため、由香子さんと婿養子の夫が店を切り盛りしていたが、5年前に父親ががんで他界。遺産の大部分を80代の母親が相続した。
だが昨年、年老いた母親が転倒して入院すると、長女が「相続をきちんと話し合っておきたい」と言い出した。
「実は父が亡くなった際に長女と次女が『あんな荒れ地はいらない』と相続放棄した土地を、お寺で育った私の夫が継ぎ、霊園にして生花店を出したら大成功したんです。それを聞きつけた長女と次女は『もともとは私たちが相続するはずの土地で始めた事業だから、儲けを分けろ』とごね始めたんです。
専業主婦の長女と次女にとって、遺産相続は人生最後のビッグチャンスです。2人は目の色を変えて、手術を終えたばかりの母を心配することもなく、『私たちに有利な遺言書を書け』と連日の電話攻撃を仕掛けています。心身ともに弱りきった母は、『もう家もいらない、娘もいらない!』とふさぎ込み、話し合いを代理人の弁護士に任せるようになった。私と長女、次女も、いまではまともに話ができません」(由香子さん)
人生の最後に、相続が家族を引き裂くことは珍しくない。相続・終活コンサルタントの明石久美さんが指摘する。
「終活には、不動産や預貯金などの“遺産分割”や“相続手続き”などといった『財産の対策』と、看取りの希望やどこの銀行の通帳を持っているかといった『情報の対策』があります。
これらを一緒くたに考えている人が多いのですが、家族トラブルに発展するのは主に財産関係です。必要な人は『財産の対策』を行っておく必要があります。財産の有無にかかわらず、いざというとき家族が困らないよう『情報の対策』は誰しも行っておきたいものです」
※女性セブン2021年7月15日号