最後は子供が親の面倒を見るもの――そんな“常識”は、とうに時代遅れのものになっている。独立した子供たちには、それぞれの家庭と生活があり、年老いた親が頼りにしようとしたところで、ろくな結果にはならない。現役世代である子供のほうが毎月の収入は多いから、漠然と“頼りになる”と考えてしまいがちだが、現実は逆であることが少なくない。
お金を巡って子供たちと話し合った結果、むしろ“頼られる”ことになり、自分たちの老後資金を逼迫させかねないのだ。神奈川県に住む70代男性の不安のタネは、「孫の受験」だという。
「娘夫婦から『大学へ進む時に苦労しなくて済むように、エスカレーター式の私立に通わせたい』と懇願されました。たったひとりの大切な孫ですから、娘に教えられた教育資金贈与信託制度を利用して、500万円を銀行に預けました。自分たちが死ねばどうせ子供のところにいくお金だし、将来、孫にも感謝されるなら一石二鳥だなと。
ところが、そんな矢先に妻ががんに罹り、長い入院生活を強いられることに。高額療養費制度があるとはいえ、差額ベッド代などは対象外なので、月々の出費は相当なものです。自分もいつ大病するかわからないし、そうなったら老後資金が底をついてしまう。自分たちがいつまでも元気なつもりでいたけれど、それが大失敗のもとでした。500万円も出してしまったことを、本当に後悔しています」
教育資金贈与信託制度とは、30歳未満の孫などに教育資金を贈与する際、祖父母が金融機関と契約を結ぶことで、1500万円を限度として贈与税が非課税となる制度だ。
2013年4月に始まり、今年3月末までが適用期間だったが、2023年3月末まで延長された。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏は、こう指摘する。
「少しでも孫のためにできることがあるならと、ポンと大金を信託する人がいますが、慎重に決断する必要があります。もし思ったより長生きしてしまったとか、入院などで急にお金が必要になった時でも、教育資金の一括贈与は解約できません。いくら孫が可愛くても、自分の懐具合を考えて援助すべきです」