年老いた親の面倒は子供が見るべき──などという常識は、すでに過去のものとなっているのかもしれない。下手に子供に老後の世話を任せると、望まない結果になってしまうことも少なくない。たとえば、身体的な衰え、認知機能の低下などに備え、子供に財産管理を任せたとしても、そこにリスクが生じることもある。
その具体的なケースを見てみよう。埼玉県在住の70代男性が肩を落として語る。
「老後は少々費用は高くても、ケアの質が高い有料老人ホームで過ごしたいと考えています。ところが、定額預金などの管理を任せた長男が、『お金がかかりすぎて、もったいない』と言い出し、割安な住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅を勧めてきた。『もっと安い特別養護老人ホームの順番待ちもしたほうがいい。無駄なお金を払わずに済むでしょう』と言われて……。認知症にでもなって、自分の意思を伝えられなくなったらと思うと、心配でなりません」
質の高い介護を受けるために貯めてきた老後資金が、子供の存在によって目的通りに使われないことを懸念する声だ。
「介護を巡っては、親と子の考えがぶつかるケースがよくあります。子供と意見が合わず長年思い描いてきた幸せな老後を送るのが難しいと思われる場合、元気なうちに準備を始めるのもよいでしょう」
そう指摘するのは、介護アドバイザーの横井孝治氏。前出の70代男性が不安を抱くように、認知症などで自分の意思を伝えられなくなってしまってからでは遅い。
老後資産とQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を守るために検討したい対策として、「65歳を過ぎ、少しでも心身に不安を感じるようになったら要介護認定を受けましょう」と、横井氏は提案する。
「認定されれば介護保険サービスが使えます。最も軽い要支援1なら、『立ち上がりや片足での立位保持などの複雑な動作に何らかの支えを必要とする』程度の状態であれば取得可能です。
要介護認定というと、恥ずかしがったり、“他人様の世話になりたくない”と頑なに嫌がる人もいますが、国民全員に与えられた権利です」