高齢者の医療を巡る問題は、家族間での重要な議題となる。「もう、病院への送り迎えはできない」と、子供に言われた山梨県在住の70代男性が語る。
「これまでは近くに住む長男の嫁が病院への送り迎えと付き添いをしてくれていたが、嫁がパートを始めて手が回らなくなったそうです。『いざとなれば救急車を呼べばいいし、タクシー代くらいなら出す』と言われました」
年齢を重ねるとともに、「通院」は日常の一部となり、回数も増えていく。些細なようで、その影響は大きい。介護評論家の佐藤恒伯氏は「子供に送り迎えを断わられた場合、病院へのアクセスが悪くなるだけでなく、さらに大きな問題が発生するリスクがある」と指摘する。
「付き添いがなくなると、老親だけでは医師からの病状の説明や薬の処方内容をしっかりと理解できない場合があります。それが原因となり、病気の進行や治療効果にも影響するのです」
介護保険の利用者の場合、ケアマネジャーが通院同行をしてくれるケースもあるが、それは報酬対象外であり、あくまでケアマネ個人の負担となるので依頼を受けてもらえるかは定かでない。
「大学病院のような大きな病院の場合は、医療ソーシャルワーカーが対応してくれることもありますが、それ以外の病院では難しい。通院が疎かになっていけば、『社会からの孤立』というリスクも高まります。高齢者が外に出て活動する機会が減ると、認知機能が衰えがちです。最悪の場合、夏場に脱水症状になり、自宅でそのまま亡くなってしまうといったケースも考えられます」(佐藤氏)
子供が頼りにならない場合でも、通院に問題が生じないようにするためにはどうすればいいのか。
「訪問診療や通院介助サービスを利用しましょう。まずは主治医と相談し、訪問診療医を紹介してもらいます。月額約5000~1万円(月2回、1割負担の場合)で、問診から経管栄養管理といった処置まで受けられます。
通院が必要なら、介護タクシーが便利です。病院までの送迎と付き添いも頼めます」(佐藤氏)