住まいに関するトラブルは少なくない。たとえば賃貸物件を退去するときに「敷金が変換されない」ということもあるだろう。借り主にとってそれが納得できるものであれば問題ないが、納得できない場合は大家に敷金の返還を求めることができるのか──。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
先日、引っ越しをしましたが敷金が返金されず困っています。その物件は、借りるときに敷金として家賃の1か月分を払い、借りた期間は3年ほどです。大家さんに敷金の返金について尋ねたところ、「畳の張り替えをするので敷金は返せない」と言われました。しかし、私が借りたときにはすでに畳はかなり古かったので、全額負担するのは納得できません。敷金は返ってこないのでしょうか。(神奈川県・36才・アルバイト)
【回答】
畳の張り替えの原因が、たばこの焼け焦げなど、あなたの使用方法の過失によるものではないという前提で考えます。
昨年4月から適用が始まった改正民法621条では、賃借人の退去時の原状回復義務について、「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う」と定められました。
条文中のカッコ内が重要で、経年劣化、すなわち通常の損耗(使い減らすこと)については賃借人に修繕義務がないことになります。通常損耗分は、減価償却費として家賃に含まれており、修繕費を支払うとなると二重払いになって不当という考え方によります。もっとも、民法の定めやその考え方とは別の合意が可能ですから、通常損耗を修繕義務の対象にする賃貸借契約も可能です。
しかし、契約したからといって、賃借人に通常損耗にまで修繕義務を負わされるのは予想外の特別な負担になるので、最高裁は、賃借人が補修義務を負う損耗の範囲が契約書の条項に具体的に明記されていたり、口頭で説明されて、賃借人がそのことを明確に認識し、負担することを合意の内容とした場合にのみ、通常損耗の修繕義務を負うとしています。