歳をとってからも子供が近くにいてくれて、身の回りの困り事が相談できるという環境は、多くの人にとってもはや幻想でしかない。1980年の「65歳以上の人がいる世帯」の構成を見ると、親・子・孫が一緒に暮らす「三世代世帯」が50.1%と過半を占めていた。親と未婚の子が一緒に住む世帯を含めれば、6割以上の高齢者が、老後に生じる困難に「親子」で向き合える環境があった。それが、最新の2019年のデータでは、三世代世帯は1割未満にまで激減。「親と未婚の子の世帯」も2割に留まる。代わって「夫婦のみの世帯」が約3割で最多となり、3割弱の「単独世帯」がそれに続く(令和3年版『高齢社会白書』)。
数字の変化を見れば明らかだが、これからの時代は我が子をアテにするのではなく、「夫婦で」「ひとりで」の人生の終え方を考えていかなくてはならない。
もちろん、それにあたって解決すべき課題は数多くある。我が子に面倒を見てもらおうと自宅を売って子供たちが暮らす家の近所に引っ越すような選択肢は捨てなくてはならないし、終末期や認知症を患った時のケアはもちろんのこと、通院の付き添いですら、子供に負担してもらうことは難しくなるかもしれない。
「貯金を取り崩すだけの年金生活ですが、息子たちはいま非正規の仕事しかなくて、それぞれの生活で手一杯。医療や介護の費用を援助してもらうのはとてもじゃないが無理でしょう」(単身の80代男性)
「独身の一人娘もすでに60代。家族介護をお願いするどころか、娘も介護される側の年齢に差し掛かっている。自分が大きな病気やケガをしたらと思うと……」(単身の80代女性)
ただ、悲嘆に暮れる必要はない。後述するが、60代以降では「ひとりで」いる世帯が最も幸せだとするデータもある。
社会の変化に伴って、単身世帯や高齢者のみの世帯が活用できる行政サービスも増えている。多くの専門家は、「重要なのは早くから準備を始めること」と口を揃える。「人生の後半戦は、親子で乗り切るもの」という先入観から、少しでも早く解放されれば、「幸せな最期」への道は開けてくる。