ただし、この問題はパナソニックだけでなく、大半の日本企業に共通する。
たとえば、ソニーは2003年の「ソニーショック(※)」以降、いわゆる「追い出し部屋」問題やパソコン・電池事業の売却などを経て、今はゲーム、映画、音楽、CMOSイメージセンサーが絶好調で2021年3月期に1兆1718億円の過去最高益を出した。しかし、間接業務のホワイトカラーに大鉈を振るわなければ、いずれはパナソニックのように失速しかねないと思う。
【※ソニーが2003年4月に同年1-3月期の大幅な赤字と翌年3月期の3割減益見通しを発表して株価が暴落し、日経平均株価も20年ぶりに7700円を割り込んでバブル崩壊後の最安値7699円50銭まで下落した】
日立は買収した海外企業に学ぶ
ソニーと同じく2021年3月期に5016億円の過去最高益を出した日立製作所も、間接業務の効率化を事業としていながら、その自動化において自社が世界の潮流から大きく後れを取っていた点では、パナソニックと大差なかった。
だが、2020年にスイスの重電大手ABBから買収した送配電子会社・日立ABBパワーグリッドの間接部門のやり方が画期的に違うことに驚愕し、同社の間接部門の専門組織に国内外の調達や総務、財務などの機能を集約すると報じられた。2025年度までの5年間で1700億円のコスト削減効果を見込んでいるというが、うまくやれば、グループ全体で年間1兆円程度は削減できると思う。
日立製作所の東原敏昭会長がABBの間接部門に着目したのは慧眼であり、買収した企業に花を持たせるのも非常によいことだ。将来は東京本社の間接部門の一部人員を海外へ移転させることも視野に入れているそうだが、私に言わせれば、間接業務はすべてABBに任せるべきだろう。
ことほどさように欧米企業は間接業務を徹底的に合理化・効率化しているから、生産性が高くなって収益が増え、給料が上がっているのだ。日本企業は日立製作所のケースを参考にして、間接部門の改革に可及的速やかに取り組まねばならない。それが新型コロナ禍を乗り越えてDX時代に成長するための必須条件なのである。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2021~22』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2021年7月30日・8月6日号