新型コロナウイルスが雇用に大きな影を落としている。名だたる大企業や、安定した経営だと思われていた業種にも、早期・希望退職者を募集する企業が相次いでいる。経営コンサルタントの大前研一氏が、日本企業の早期・希望退職の増加について考察した。
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新型コロナウイルス禍の影響で、日本企業の人員リストラが加速している。
東京商工リサーチの調査によると、2021年の上場企業の早期・希望退職者募集人数が6月3日に1万人を突破した。1万人を超えたのは2020年(9月14日)より約3か月早く、実施企業数は2020年同日より17社多い50社で、募集人数も2020年同日より4121人多いという。人員削減は日本たばこ産業(JT)、KNT-CTホールディングス、LIXIL、東武百貨店、中京銀行、アステラス製薬など様々な業種の企業に広がっている。
また、内閣府が6月に公表した2021年版『男女共同参画白書』は、新型コロナの感染拡大による不況は女性の就業が多いサービス業などの接触型産業に強く影響を及ぼしたため、「女性不況」(シーセッション/She-Cession=SheとRecessionを組み合わせた造語)と呼ばれることもあると指摘した。
そういう暗澹たる状況の中で、パナソニックが既存の早期退職制度を拡充し、バブル入社組の50代を標的にした大規模リストラに着手すると報じられた。同社は創業者の松下幸之助氏が「事業は人なり」をモットーにしていたことから、これまで人員整理をタブー視してきた企業である。そのパナソニックまでもが大規模リストラに踏み切ったとなれば、今後も人員削減を行なう企業が相次ぐことは避けられないだろう。
パナソニックが抱えた余剰人員
そもそも早期・希望退職募集は、経営者が“サボった”結果であり、好ましくないやり方である。たとえば、百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングスは2018年度から大々的な人員削減を行なったが、それは役に立たない中高年社員を、早期退職金を払って切り捨てたにすぎない。本来なら、彼らにICTやAIなどを活用したマーケティング・流通・販売の新しい知識と能力を身につけさせて雇用を継続する、あるいは他社から求められる人材になるよう再教育すべきだが、それができなかった。
パナソニックも同様だ。間接業務の革命的な変化に対応できず、ホワイトカラーの余剰人員を大量に抱え込んでしまった。さらに、その人たちがこれから必要とされるスキルを身につけて職能転換できるようにすることもできなかったからリストラするわけで、これは「社員を再教育して役に立つようにする知恵も自信もありません」と宣言したのと同じであり、経営者として最も恥ずべきことである。同社を9年間率いてきた津賀一宏会長(前社長)は、しばしば経済誌などで持ち上げられてきたが、結果を見れば、その経営手腕には大いに疑問を感じざるを得ない。