「緊急事態宣言が出たから楽しみにしていた京都旅行に行けなくなったし、予約していたフレンチもキャンセルせざるを得なかった(泣)。でもしょうがないようね。今、みんなで我慢しなくちゃ光は見えないからね」
こんな感じで社会の協調性と規範を守る善良なる市民をアピールし、コメントでは「そうだよね」「もうちょっと我慢しようね」「コロナが終わったら一緒に旅行しようね」なんて書かれる。
実に他人への配慮を人生における超重要事項とする日本人らしい行動ですが、旅行に行ったこと、酒を飲んだことをSNSに書ける人間は、なかなか肝が据わった人といえましょう。批判されても「だからなんだ?」「お前にオレの行動を縛る権利はない」と言い切れる。
しかし、これができるのは、クレームをつける対象がいない自営業や無職の人が主になります。会社員や学生などの組織人がSNSに公開してしまうと職場や学校にクレームが寄せられてしまう。
先日、高校生から聞いたのが、駅や電車の中でノーマスクでいたら学校にクレーム電話が入るとのこと。制服から学校は特定できるわけで、こんなところにも「マスク警察」は存在するのです。となれば、当然所属先がある人は恐ろしくて旅行に行ったことや飲みに行ったことなどSNSに公開できるわけがない。
しかし、なんとしても公開したい時もあります。たとえば卒業式の記念写真なのですが、ここでも「これまた日本人らしいな~」と思うのが、「※撮影時だけマスクを外しています」の注釈を一言入れることです。さらに、周到なのが、卒業生は皆マスクを外しているものの、教師や職員のような大人が何人か写っている場合、その人はマスクを着けている点です。
あとは、意味不明だったのが集合写真で最前列の人間だけがマスクをして、後ろの3列ほどは着けていないというのもありました。そこまで配慮するんだったらもう公開しないでもいいじゃん、と思うのですが、いちいちうるさく文句を言ってくる人も多いのでしょうね。ご愁傷様です。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『恥ずかしい人たち』(新潮新書)。