相続には「特別受益の持ち戻し」という仕組みがある。特定の相続人が、結婚資金や住宅の購入資金などの贈与を受けていた場合、そうした贈与を相続財産に含めて分配するという考え方だ。つまり、“多く贈与を受けていたら、相続できる財産が少なくなる”のである。
「もめごとを未然に防ぐには、遺言書で“特別受益の持ち戻し免除”の意思表示をしておくことも有効です。遺言書で生前の贈与について『持ち戻しは必要ない』と記載しておけば、贈与分が相続財産にカウントされることはない。子供のうちの誰かに多く渡したい時に、争い事を避けられます」
父親が亡くなり、法定相続人の息子2人で遺産分割協議を始めた時、離れて暮らす弟が「父の預金があまりに少ない。同居の兄が勝手に使ったのでは」と言い出したケースもある。
「親と同居して通帳の管理を任された長男が、親の預金を引き出して使うケースはあります。それが親のために使ったお金だとしても、現金の使い道は不明瞭になりがち。簡単でいいので帳簿を作り、現金を引き出した日付、金額、使途をメモし、レシートも添付しておけば、“横領”がないことの立証には十分役立ちます」
良好だった家族関係が一変するのが相続の怖いところ。誰にとっても他人事ではない。
※週刊ポスト2021年8月27日・9月3日号