交通事故を起こした際に、被害者から治療費を請求されることは珍しくない。しかし、事故からある程度の時間が経過した後に、治療費を請求された場合、“はたして事故が原因なのか……”と訝しがる人もいるかもしれない。あとから治療費を請求された場合にどう対応すればよいのか、実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
2か月ほど前に追突事故を起こしてしまいました。停車中の車に追突しましたが、そのときは被害者にけがもなく、物損事故として処理され、一度は示談が成立しました。ところが、いまになって被害者が「事故が原因で首と腰に痛みが生じたので治療費を払ってほしい」と言ってきました。事故から日数も経っているので本当に事故の後遺症なのか疑わしいのですが、治療費を支払わないといけないのでしょうか。(東京都・45才・女性)
【回答】
追突された外力で首が強く後方にしなり、その反動で前に急激に振られることで首の筋肉や関節が損傷し、首を動かすと痛むなどいわゆるむち打ち損傷と呼ばれる症状が出ることがあります。頸椎捻挫です。
物損事故の示談の交渉過程で人身の損害について申し出がなく、事故の2か月後になって突然言われたら疑問を感じるのは当然です。この疑問を法的にいえば、事故といまの症状の間に相当因果関係があるかどうかの問題となります。
原因と結果との間で因果関係があることが、原因行為をした人の責任を認める大前提ですが、それだけでは無限に広がる可能性があり、責任を負わせることが相当な範囲を相当因果関係といいます。
具体的には、事故(原因)がなければ現在の症状(結果)はなかった場合で、現在の症状が事故があれば通常起きる結果といえる場合に相当因果関係が肯定され、加害者は結果について損害賠償責任を負います。
被害者の主張する症状の発症時期が事故後2か月経って起きていると仮定し、それが通常考えられないのであれば、治療を受けている症状は事故とは無関係の原因による可能性が強く、この相当因果関係が否定されます。しかし、こうしたことは客観的立場の医師の意見を尊重して判断されます。日数がだいぶ経過した後の発症もあるかもしれませんし、治療開始時期がもっと早かったかもしれません。