行動遺伝学の知見によれば、遺伝率はよい方向でも悪い方向でも「極端」になるほど高くなる。並外れた才能も、世間を震撼させる凶悪犯罪も、いまでは遺伝的な要因が大きいことがわかっている。
だがこれは逆にいえば、平均付近のほとんどのひとにとっては、「氏(遺伝)が半分、育ち(非共有環境)が半分」ということだ。人生のあらゆる場面に遺伝の影が延びているから、自由意志に制約があることは間違いないとしても、だからといって生まれ落ちた瞬間にすべてが決まっているわけではなく、自分の手で運命を(ある程度)切り開いていくことはできるはずだ。
これからの時代に求められているのは、こうした不都合な事実(ファクト)を受け入れたうえで“よりよい社会”を構想する「進化論的リベラル」なのではないだろうか。
【プロフィール】
橘玲(たちばな・あきら)/1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。その他の著書に『上級国民/下級国民』『スピリチュアルズ「わたし」の謎』など。リベラル化する社会の光と影を描いた最新刊『無理ゲー社会』が話題に。
※橘玲・著『無理ゲー社会』(小学館新書)より抜粋して再構成