リベラル化の進行によって誰もが「自分らしく」生きられるようになったことで、「生きづらさ」を感じるひとが増えている──そんな社会の構造を、攻略困難なゲーム(無理ゲー)にたとえて解き明かした作家・橘玲氏の最新刊『無理ゲー社会』がベストセラーとなっている。橘氏は、リベラル化に伴って生じる問題の一例として、「“モテ/非モテ”格差が拡大し、男女のマッチングも難しくなる」と指摘する。どういうことなのか、橘氏に聞いた。
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かつての身分制社会と異なり、リベラル化が進んだ現代社会では恋愛も完全に自由化されました。いまの若いひとたちは、自分で選んだ相手以外のパートナーとつき合うことなど想像もできないでしょうから、「自由恋愛」という言葉も死語になりました。
親が決めた相手と強制的に結婚させられていたことを思えばこれは素晴らしいことですが、その一方で、恋愛の自由市場が拡大し、グローバル化するにつれて、男と女のマッチングがうまくいかなくなるという問題が起きています。
洋の東西を問わず、女性には強い「ハイパーガミー(hypergamy=上昇婚)」の傾向があることがわかっています。自分よりも学歴、収入、社会的地位の高い相手に魅かれることです。
女性のハイパーガミーの理由は、「進化の過程でそのように脳が“設計”されたから」というものから、「家父長制・男性中心主義のなかで社会的に構築された」というものまでさまざまな意見があるでしょうが、こうした現象が世界じゅうで見られることは間違いありません。
その結果、現代社会では男性の収入と結婚できるかどうかが強く相関するようになりました。日本のデータでもこのことは明らかで、20代で年収600万円超だとほとんどの男性に交際経験がありますが、年収200万円以下だと半分程度まで下がります。「持てるものはモテる」「持たざる者はモテない」のです。
恋愛のマッチングをさらに難しくしているのは、女性が高学歴化し、社会的な地位が上がってきたことです。これまで女性がマイノリティとして社会的・経済的に差別されてきたことを考えれば、これはもちろん素晴らしいことですが、これにハイパーガミーの傾向を重ね合わせると話は不穏になってきます。当然のことながら、女性の平均的な地位が上がれば上がるほど、それより高い地位にいる男性の数は少なくなるのです。