これはけっして荒唐無稽な想定ではない。なんといっても、大金持ちになるためにやることはセックスだけなのだから。──「先進国の男たちの欲望によって世界から貧困層がいなくなる」という別の理想主義を唱えることは、原理的には可能かもしれないが。
こうした事態を避けようと思えば、誰が「日本人」で誰がそうでないかを厳密に区別するほかない。たとえば国家が「日本人遺伝子」を決めて、それを70%超保有している場合にしかベーシックインカムの支給対象にはしない、とか。これはまさに「優生学」そのもので、UBIの理想が実現すれば、わたしたちは人類史上もっともグロテスクな「排外主義国家」の誕生を目にすることになるはずだ。
【プロフィール】
橘玲(たちばな・あきら)/1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。その他の著書に『上級国民/下級国民』『スピリチュアルズ「わたし」の謎』など。リベラル化する社会の光と影を描いた最新刊『無理ゲー社会』が話題に。
※橘玲・著『無理ゲー社会』(小学館新書)より抜粋して再構成