「自分を守れるのは、自分しかいない」──コロナ禍でこう痛感した人は多いだろう。自衛は大切だが、その意識が誤った方向に働くと考えものだ。新型コロナワクチンを打つも打たぬも個人の自由だが、全国でワクチンの接種が進むなか、さまざまな事情でワクチンを打てない人が冷遇されている現実もある。
ワクチンの接種が推奨されていない人がいる。過去に予防接種で強いアレルギー反応を起こしたことのある人、抗がん剤などでがん治療を受けている人、骨髄移植や臓器移植の後で免疫抑制剤を投与している人などがその代表例だ。40代の主婦・木村朝子さん(仮名)の夫もそれに該当する。
「うちの夫は、過去に予防接種でアナフィラキシーショックを起こしたことがあり、ワクチンを打っていません。そのせいで、会社で立場がないようで……。
夫の会社では、8月からワクチン未接種の社員は強制的にリモートワークになりました。自宅勤務だと残業代などの手当がつかないため、手取りが5万円以上も減額。バックヤードの部署へ異動も打診されているとか。夫は目に見えて落ち込み、口数も減ってしまいました」
ワクチンを打っていないことで、職場環境が悪化した人も。
「私は副反応が怖くてワクチンを打っていないのですが、最近、ワクチン未接種の人は、屋外の作業場に回されるようになったんです。扇風機があり、屋根がついているとはいえ、室内に比べると炎天下同然。コロナより熱中症で倒れそうですよ。さらに、ワクチンを打っていなければ社員食堂も利用不可になり、屋外のベンチか車の中で食べるしかありません。これってパワハラにはならないんでしょうか?」(46才・食品メーカー・パート勤務)
このようなケースにはどう対応したらよいのだろうか。職場でのトラブルを数多く担当する弁護士の小久保哲郎さんが解説する。
「未接種を理由に、決まっていたシフトから外したり、仕事に出てくるなと命じて欠勤扱いにすることは違法。賃金の支払い義務が生じます。また、未接種者を部屋に入れないなど、あまりにも不当な扱いはパワハラとして認められ、慰謝料を請求できる可能性もあります。会社内の相談窓口が機能していない場合、都道府県の労働事務所や労働組合、弁護士会の相談窓口などに相談してください」