人生の最後を美しく迎えるため、身のまわりの物の片づけを検討する人は多いだろう。だが、“ただの片付け”とは分かっていても、長年ため込んだ家中の物を取捨選択し処分するのはそう簡単ではない。大きな家に住み、高級品が身近にあるスターならばなおさらだ。
1960年代のテレビ黄金時代、「スパーク3人娘」として一世を風靡した国民的アイドルも、理想の生き方を見つめ直したばかり。中尾ミエ(75才)、伊東ゆかり(74才)とともに活躍した園まり(77才)だ。
園は3人娘を経てから長く女優や歌手として活躍し、2005年に3人娘を再結成してコンサートツアーを再開した。だがその後、乳がんを患って2008年に手術すると、2011年には実姉がくも膜下出血で急逝。以降、園がひとりで介護を続けていた母も2016年に99才で亡くなった。独り身の女性として、自身のがん、家族との死別や介護といった困難に見舞われた彼女に残されたのは、都内の大きな自宅だった。
「貧しい幼少時代を過ごしてきたため、大きな家に憧れていたんです。デビュー後に5DKの自宅を買って、母と姉と3人で住んでいました。家の中はパンパンになるほど物であふれ返っていて、私ひとりで整理できる状況ではない。母と姉が亡くなった後、仕事で歌を歌いながら『あの家どうしようか』と、思い悩みつつも何もできない状態が続きました」(園・以下同)
自分以外の人の荷物を残された家族は、どこから手をつけるべきか判断できない。見て見ぬふりをしながら、時間だけが過ぎてしまう経験は、一般家庭でも珍しくない。
園に転機が訪れたのは昨年の8月。デパートで買い物中に転倒し、右足の膝下を骨折。その4日後に手術を受けることとなった。その後の入院生活が園の価値観を大きく変えた。
「着の身着のまま入院しました。コロナ禍だから面会も禁じられていて、マネジャーさんに必要なものを受付に預けてもらっていました。病室では上げ膳据え膳で苦労することは何ひとつなく、だけど、いままで周りの人のお世話になって生きてきたからこそ、当たり前だと思ってはいけないと感じたんです。
車いすでトイレに行くようになり、1日3食出る病院の食事は簡素でしたが、すごくおいしくて。自分はいままで何を食べてきたんだろうって思いました。病室での些細なことに感動して、『こんなに何もなくてもコンパクトに生きられるんだ』と気づいたんです」
退院後は通院しやすいように病院近くのビジネスホテルで暮らした。コンビニで食べ物を買って生活していると、これくらいの暮らしで充分だと感じるようになった。