トヨタ自動車は、東京五輪のスポンサー枠の中では最上位に位置するワールドワイドパートナー(全14社)で、スポンサー料は2024年までの10年間で2000億円にも上ると言われている。だが、オリパラがコロナ禍の無観客開催となったことで、次世代技術を披露する場が失われるなど、トヨタにとって想定外の事態が相次いだ。
トヨタが今回のスポンサー企業のなかで際立っていたのが、五輪開催に批判的な国民の声に寄り添おうとしたことだった。
トヨタは開会式の4日前に五輪関連CMの放送を取り止め、開会式など公式行事に豊田章男社長を含めて幹部は参加しないという方針を示した。経済ジャーナリストの小泉深氏が言う。
「国民が皆、承知しているように、組織委の体たらくはひどいものだったという認識がトヨタにもあった。
トヨタが組織委に車両提供について問い合わせても返事が来ないなど対応が杜撰で、社内でも『情報は報道で知ることも多く、スポンサーとは何なのか』という声が上がっていたようです。関連CMの放送中止や開会式への不参加は、東京五輪の開催に不信感、不安感をもっていた人々からは高く評価されました。
その直後、開会式の演出にかかわっていた小山田圭吾氏、小林賢太郎氏の過去のいじめ問題やホロコーストに関する問題発言が明るみに出て、組織委に対してはさらに批判が高まったが、トヨタは五輪と距離を置く判断をしたおかげで、この問題をすり抜けることができた」
トヨタの行動は一定の評価を得たが、その一方で失ったものも大きい。ノンフィクション作家の本間龍氏が語る。
「五輪開催時のCMは、スポンサー企業にとっての集大成です。ここで宣伝をせずにいつするのかと。その最後の果実をトヨタが取らずに終わったことは事実です。
選手村や会場で披露しようとしていた次世代自動車の宣伝もCMに盛り込まれていたのかもしれませんが、実物をお披露目することも叶わず、CMで見せることもできなかった。何年もかけて準備してきたプロモーションが最後の最後で無になってしまったのです」
もちろん、自らの判断で決めたのだから、部外者がとやかく言うことではないが、トヨタの不参加は、他のスポンサー企業にも影響を及ぼすことになった。