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孫正義氏のスタンス「私は賢い投資家ではありません。『冒険投資家』です」

「私は『情報革命家』です。それではわかりにくいというのなら、投資家でもいい。先だって台湾に行った時、台湾の新聞が『日本の冒険投資家がやってきた』と書いていました。私はウォーレンのような『賢い投資家』ではありませんが、『冒険投資家』です。そうだ!『冒険投資家』がいい」

 孫はその場で思い付いた「冒険投資家」のフレーズが大層気に入ったようだった。

 その3ヶ月後に発表された2020年3月期決算では創業以来最大となる1兆円超の赤字を計上したが、一転して2021年3月期の決算発表では通期の最終損益で4兆9900億円の黒字を叩き出した。トヨタ自動車を抜いて日本企業として過去最高の利益である。

 5月12日の決算説明会に登壇した孫は、利益が跳ね上がった一因にARM株の売却などがあるため「たまたまのたまたまのたまたま」と謙遜して見せたが、一方で「九州の雑餉隈でソフトバンクを立ち上げた時、2人の社員の前で『売り上げも利益も1丁(兆)、2丁と豆腐のように数える会社になる』と話したが、ようやくそれが実現した」と感慨深げに語った。

 夢を叶えた孫は何処を目指しているのか。6月23日の株主総会でその一端を披露した。

「19世紀の産業革命では、蒸気機関を発明した(起業家の)ジェームズ・ワットらに開発資金を投じた資本家のロスチャイルド家の存在も大きかった」

 と説明した後、孫は高らかに宣言した。

「(投資額を上回る資金の回収を目指す『投資家』ではなく)SBGは情報革命の資本家であると定義したい」

「年をとったとか、お金に目がくらんだとか、利益も髪も薄くなったとか、そこまでは言われていないが、(私は)未来を作ることに一番の使命を感じている」

 泥臭く起業家であり続ける三木谷と、華麗に資本家に転じようとする孫。日本経済の未来は、やはりこの二人にかかっている。

第6回に続く)

【プロフィール】
大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。1988年早大法卒、日本経済新聞社入社。日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て16年4月に独立。『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(日本経済新聞)、『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋)など著書多数。最新刊『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)が第43回「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」最終候補にノミネート。

※週刊ポスト2021年9月17・24日号

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