田代尚機のチャイナ・リサーチ

中国はなぜ北京に証券取引所を新設するのか 本土「第3の取引所」の狙い

 2004年2月には、民営中小企業の資金調達の場として深セン市場内に中小企業板が設置されている。後から同じ深セン市場内の創業板が設立されたことで、その存在意義が薄れ、2021年4月にはメインボードに吸収されている。

 少し話がややこしくなるが、上海、深センに取引所ができた当初から、いわゆる“青空市場”としての証券取引センターが各地方にある。公の市場を通さない店頭での株の譲渡が認められている。その後、いくつかの変遷を経て現在は、メインボード(上海、深セン)、セカンドボード(深セン創業板)に続く新三板と呼ばれる市場となっている。北京の中関村科学技術園であるとか、天津濱海、武漢東湖、上海張江といった技術開発区のハイテク未上場企業などの株が取引されている。

資金供給の不足を補うことが目的

 今回の北京証券取引所の設立は、新三板改革の一環としてイノベーションを加速させるための一つの国家政策である。新三板を卒業し、成長の段階を一つ上がる企業に資金調達の機会を与える市場として設立されたのである。

 米国のシステムが強いのは、まず、経営者サイドに優秀な人材が溢れていることだ。その上、優秀な人材を生かすために、企業の発展段階に応じてリスクマネーを供給できる厚い投資家層が出来上がっていることである。

 スタートアップ企業や、事業がある程度軌道に乗り始めた企業、あと少しで上場基準を満たすことのできる企業とでは、当然、投資する資金のリスクリターンの度合いが違うが、それぞれのリスクリターンにおいて資金を出せるエンジェル投資家、ベンチャーキャピタル(ベンチャーファンド)の層が厚い。目利きとしての質が高く、量も多い。

 中国では、先に上場を果たした経営者、企業がエンジェル投資家となり、ベンチャー資金の出し手となっているが、米国と比べると質量ともにまだ劣る。ベンチャーキャピタルは資金量こそ増えてきたが、依然として質量ともに十分ではない。

 そうした弱点を補うために、国家がファンドの形で資金の出し手となっているが、今回の北京証券取引所の新設は、資本市場を多層的にすることで、資金供給の不足を補うことが目的である。

 中国は現在、インターネット関連企業や一部の教育関連企業に対して、規制を強化しているが、それば上場企業としてのあるべき姿を国家として明確に示そうとしている。規制強化は社会主義化であったり、単なる不平等の是正などが目的ではない。中国は、米国とは異なる形で資本市場を強化し、イノベーションを駆動させるシステムを構築しようとしている。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。

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