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三木谷氏と孫正義氏の球団経営スタンスの違い「ビジネス」か「常勝」か

 プロ野球に参入すると、程なくMLBのコミッショナーと仲良くなり、有力チームの関係者から最新の戦術やトレーニング法を仕入れてくるようになった。

 こうした三木谷の姿勢はビジネスでも変わらない。ネットで面白いサービスがあると聞けば、まずは自分がそのサービスを使い倒し、誰よりも詳しくなってから指示を出す。新規参入した携帯電話事業でも先端技術に疑問があれば楽天モバイルCTO(最高技術責任者)のタレック・アミンを捕まえて得心するまで根掘り葉掘り聞きまくる。人任せにせず、自分の手で触り、自分の頭で考え、一歩ずつ進んでいくのが三木谷のやり方だ。

 楽天グループの祖業であるネット・ショッピングは、三木谷自身が全国を歩き回り、出店者を探すところから始まった。1997年5月にサービスを開始したが、最初の月の売上高は32万円。このうち18万円は三木谷自身が買っていた。そのサービスが今や国内流通総額4兆5000億円(2020年度実績)のビッグ・ビジネスに育った。福岡の小さな信販会社を買収したところから始めた楽天カードも、今では発行枚数日本一だ。

 ゼロから始めたり、小さな会社を買収したりするところから、自分の手で大きく育てていくのが三木谷流。

 対して孫はホークスと同じように、出来上がった強い会社を巨額の資金で買収してグループを大きくしてきた。それがボーダフォンの日本事業を買収した国内の携帯電話事業であり、米国のスプリント・ネクステルを買収した米国の携帯電話事業であり、英アームの半導体事業。全て1兆円を超える大型買収である。

 孫はそこからさらに一歩進み、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(いわゆる10兆円ファンド)で世界中のユニコーン(企業価値が10億ドルを超えた未上場企業)に出資する「資本家」に転じた。

 一歩ずつ匍匐前進する三木谷の経営は地上戦さながら。1兆円超えの大型買収を繰り返し、10兆円ファンドにたどり着いた孫の経営は空中戦だ。株式時価総額で見れば楽天グループは1兆7600億円。ソフトバンクグループは12兆3700億円で、子会社ソフトバンクの7兆6700億円を加えれば約20兆円に達する。現時点では空中戦を繰り広げてきた孫の圧勝である。

 だが、二人の決着はまだついていない。「パリーグのお荷物」と言われたイーグルスが毎年、優勝争いをする強豪チームに育ってきたように、携帯電話事業でも楽天モバイルはすでに500万人の利用者を獲得し、じわりじわりとソフトバンクに迫っている。

「千里眼」とも呼ばれる直感と、抜群の度胸で大逆転の成功を続けてきた孫と、「Get Things Done!(やりきれ!)」の精神で実績を積み上げてきた三木谷。野球では現在、3位イーグルスと4位ホークスのゲーム差が1.5(9月13日終了時点)。どちらもまだクライマックスシリーズ進出を狙える位置につけている。全く流儀の異なる二人の海賊が、日本のプロ野球を熱くしている。

(次回、最終回に続く)

【プロフィール】
大西康之(おおにし・やすゆき)/1965年生まれ、愛知県出身。1988年早大法卒、日本経済新聞社入社。日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(日本経済新聞)、『東芝 原子力敗戦』(文藝春秋)など著書多数。最新刊『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)が第43回「講談社 本田靖春ノンフィクション賞」最終候補にノミネート。

※週刊ポスト2021年10月1日号

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