いまや「持ち合わせがないから、お金をおろしに行ってくる」と言えば、行き先は銀行ではなくコンビニという時代だ。すっかり生活インフラとして定着したコンビニATM(現金自動預払機)の中でも、パイオニアのセブン銀行は全国2万5000台以上のATMを設置し、今も増え続ける。一方で、コロナ禍によるキャッシュレス化の加速は逆風になる。セブン銀行の舟竹泰昭社長(64)はどのような生き残り戦略を描いているのか。
──平成元年(1989年)当時、どんな仕事をしていたのですか?
舟竹:1980年に大学(東大経済学部)を卒業後、日本長期信用銀行(現・新生銀行)に入行し、1989年は本店の営業担当でした。バブル経済真っ只中で、とにかく企業にお金を貸し込んでいた時代ですね。
──しかし、長銀はバブル崩壊後に破綻への道を辿ります。
舟竹:バブル崩壊後は長銀全体をコントロールする総合企画部という部署に異動したのですが、営業の最前線では気づかなかった不良債権の山を目の当たりにし、先行き不安に駆られながら仕事をしていた記憶があります。
1998年に長銀が破綻して公的管理となり、新生銀行と行名を変えた後、法人向けのホールセールバンクから個人向けのリテールバンクに衣替えするためのプロジェクトが立ち上がり、2001年に私はリテール業務推進部長になりました。
──セブン銀行(当時はアイワイバンク銀行)に転職したのは同年の年末でした。なぜ?
舟竹:その頃、新生銀行からセブン銀行に移籍した先輩からお声がけいただいたのです。ただ、周りからは「コンビニ銀行なんて成功しないからやめておけ」と心配されたことも多かった。私自身もお客様がコンビニでATMを使ってくださるのか当初は不安に思いましたが、それは杞憂でした。
「コンビニ商品はスーパーより価格が高めでも“いつでも開いている”“近くて便利”という理由で買っていただける。生活動線にあって必要ならばATMにもニーズがある」という、セブン‐イレブン・ジャパンが立てた仮説が証明されたわけです。
スタート当時は「給料日の後や旅行前に、まとまった金額を銀行のATMからおろす」というのが当たり前でした。コンビニでおろせるようになって、どこへ行くにも現金のことを気にしなくて済むようになった。我々が新しい生活スタイルを作ったと自負しています。
──利便性のほかに成功した理由は。
舟竹:セブン銀行のATMでは1台で数千万円、トータルでは7500億円超の現金が使われています。
しかし、ATM装填に活用されている現金は金利を生まず、調達・保管コストだけがかさんでしまう。仮に金利が1%だとすると、年間75億円のコストです。しかし平成の30年間で金利は下がり続け、いまやマイナス金利です。収益性向上に与えた影響は大きかったですね。