過大な財務レバレッジ
恒大集団は8月まで会長を務めていた許家印氏(1958年10月生まれ、62歳)によって創業された。武漢鉄鋼学院を卒業後、河南舞陽鉄鋼に入社した許家印氏は、その後グループ内企業で不動産開発事業を手掛けたが独立し、1997年に広東省広州市で同社を設立した。
中国では比較的若くて起業する経営者が多い中、やや遅い起業であったが、その後は1998年の住宅制度改革により、住宅がそれまでの国有企業による供給から市場経済によって自由に供給される体制に変わると、その流れに乗って業界と共に急成長を遂げた。
2020年の不動産販売額では碧桂園(香港・02007)に次ぐ第2位。第3位の万科企業(深セン・000002)をわずかに上回り、前年から順位を1つ上げている。今、破綻の危機に見舞われているのは、業界トップクラスの企業だということだ。
ただ、同社は他社と比べ、大きく違う点がある。積極的に不動産開発を進めただけではなく、事業の多角化を積極的に進めた。金融、健康産業、電気自動車、旅行からスポーツ事業まで、チャンスと見たら手当たり次第に参入するような超ポジティブ経営を行っていた。
過大な財務レバレッジを行政指導に基づいて縮小させられ、基準に届かないことから(ただし、総負債については2021年6月末時点でグリーン基準を達成)融資を制限され、一気に危機に陥ったというのが実情だ。
当局は安易に恒大集団を助けない
習近平国家主席が主導し、国家体制改革など国家の重要事項を議論する場である中央財経委員会会議(第十回)が8月17日に開催され、「共同富裕」を促進させる方針が決まった。共同富裕とは、トウ小平理論の後半部分である「先に豊かになった人、地域が後から豊かになる人を助ける」といったことの実現を意味する。
北京、上海、深センなどの大都市を中心に、不動産価格の高騰は止まらない。こうした大都市の不動産価格は、既に東京都の平均的な価格を遥かに超えており、結婚適齢期、あるいは子育て期の若者が買える価格ではなくなっている。「後から豊かになる人を助ける」ためにはまず、不動産価格の急騰を押さえ、できれば少しずつ適正な価格へと下げなければならない。それによって、社会全体に広がる根強い投機熱を冷まし、若者を含めた庶民の不公平感を解消させなければならない。
こうした大きな政策が背後にあるだけに、当局は中途半端な形で安易に恒大集団を助けたりはしないであろう。