非常時は気象庁の情報を活用
これらの特徴を考えると、1週間先の台風の動向を知りたい時はECMWFの台風情報が役に立ちそうだ。次の週に出掛ける予定があるなら、チェックしてみてはどうだろう。予報円が大き過ぎて、もう少し絞り込んだ情報が知りたい時には、JTWCのものがすっきり頭に入るかもしれない。
なお、気象庁は台風の進路予報の精度について、2019年に開催した懇談会の資料をホームページに掲載している。これによれば、気象庁の台風の進路予想(3日先の場合)は必ずしも海外の気象官署に比べて優れているということはないようだ。また、進路予想の向上は2021年春の時点でもあまり芳しくないという。その意味でも、海外の情報に目を通す価値はありそうだ。
とはいえ、台風が明後日にも我々の生活圏に入ってくるという切迫した状態になれば、やはり頼りになるのは気象庁の台風情報だ。気象庁は、地方自治体の防災機関と連携し台風情報を発信しているからだ。台風に伴う大雨などの警報や特別警報の発表の内容やタイミングは、市町村や都道府県などの防災機関との間で意見交換を行っている。気象庁は、民間気象会社が予報業務を行う場合、気象庁長官の許可を受けなければならないとしているが、こうした許可制民間気象会社に向けて「一般向け予報の場合、台風に関しては気象庁の台風情報の範囲内での解説にとどめ、独自の予報などを提供することはできません」としているのは、しっかり自治体と連携したうえで情報発信をしているからという背景がある。
防災は「自然災害との戦争」と例えられることがある。相手が攻めて来てから議論をしていては、十分に準備することは出来ない。SNSで広がるフェイクニュースに惑わされないためにも、災害対策の面では情報や対策の一元化が重要だ。
このように、情報を入手する際は、その時々の状況に応じて姿勢を変える事が大切だろう。台風の動向に平時と非常時といった区別は無いのかもしれないが、平常時は海外の情報を含め様々な台風情報を活用し、防災行動が重要となる非常時は気象庁の台風情報を注視して、地方自治体の対策に沿った行動が求められる。こうしたメリハリを利かして、台風情報を使い分けていきたいものだ。
【プロフィール】
田家康(たんげ・やすし)/気象予報士。日本気象予報士会東京支部長。著書に2021年2月に上梓した『気候で読み解く人物列伝 日本史編』(日本経済新聞出版)、そのほか『気候文明史』(日本経済新聞出版)、『気候で読む日本史』(日経ビジネス人文庫)などがある。